No.1『円卓の住人』スズラン小説/作:ユキ/提供:スズラン荘

円卓の住人
作:ユキ
提供:スズラン荘

ここは戦場。
鳴り止まない多数の爆発音。
戦力差は圧倒的、しかし、奴等は攻撃の止めることはない。彼等は、何故砲撃を止めないのだろうか。
既に此方の軍の死傷者は何万人と上る。

この俺達が戦闘を逃れる為に入り込んだ洞窟からはもう、こちらの軍と思える人物はたった一人しか戦ってないではないか。そう…たった一人しか…。

「…」
無数の爆発…。しかし最早この戦場で鍛えられた肉体は何にも恐れたりしない。
と、言えど既に左手、右足は俺にはない。
それ所か、左足には弓が刺さっている。しかし、右手がある限り、まだ戦える。

彼が手にしているのは流星の剣。
彼が一つ振るう度、星が降る。

「この、一等地。昔はスズラン荘という建造物があったそうだ。」
男は言った。男は懐かしそうな顔をして、…だが顔を伏せた。
「今は昔の話ですが。」
「どんな、建物だったんですか?」
若い男、横には若い女。多分此処を購入するつもりなのだろう。ならば、彼等に昔話をすることにしよう。
「昔の話さ、ここは、[普通の人間]が住んでいたのさ。普通の人間、そう。君達は、普通の人間が力になりうる物を手に入れたら…どうすると思うかね?」
「力…ですか。それは…金や権力を欲する…ですか?」
「ふむ。まぁそう思うだろうね。ここから先の話は長くなるが、それでも聞くかい?」
「…はい」

「こんなもん見つけた。」
フードの人物、仮名ユキ。彼はこのスズラン荘に存在する一住民。
このスズラン荘という建築物、実に愉快な構造となっている。地下の存在、謎の栽培場、無駄に大きな研究室。
それは管理人、通称HN(変態-流れ星)にも内蔵がよく分からなくなっているらしい。
今回、ユキという人物が持ってきたのは、

大きなハルバートだった。

「ハルバート!?」
巨大な鎌でもなく、斧でもなく…な造形を見て住民達は慌てふためる。
「そう、ハルバート」
ユキは軽くハルバートを持ち上げた。…外装と音から軽く100kgあるようにも思える。
「んなのどこで見つけたのさ!?」
HN。ここの管理人。あまりに物騒な武器に少々驚いている。
「えーと…そうだ。地下10階だ。」
「地下10階…?うちには9階までしかなかったハズだけど。」
「なんかあった。あったから寄った」
ユキは自由奔放な人柄であり、行動が気紛れ、適当で片付けられる。
とにもかくにもスズランの住民達は、謎の10階に行くことになった。

「あれぇ…本当にあっちゃったよ。」
地下10階、天井を見ると、地下9階で栽培していたレモンの木の根っこが見えなくもない。ここはコンクリートで出来てる訳でもなく、自然に出来た空洞に見える。
「こっち」
先々と進むユキ、すると、ある場所で立ち止まった。
「ここが最深部に繋がる道だ」
最深部の前に住民は立て札が立てかけられているのが気になったらしく、皆そこを見つめていた。
そこには [一人ずつ入ってネ!]
…と。
「これ明らかに人為的に作られてません?」
黒服で身を包む年中暑そうな人物のGAMEが言った。
「気のせいだ。」
「え、ちょ、おい」
「とりあえず、ここの奥で、ハルバートが見つかった訳ですわ。お前らにも見合った武器があるかもなー。」
脳天気なユキとハルバートの前にHNが言った。
「そんな危ないもん回収するに決まってんだろ…」
と言ってHNがユキのハルバートに手の伸ばした。住民達もそりゃそうだな、と解散しかけていた、が。
言葉に表せない無数の数の羅列がHNを襲った。
「うわあああああ!!」
「ふむ、どうやらこれは自分以外の人間には回収出来ないようだね。」
HNは、膝を地につけ、へたりこんだ。

「どうした!?」
へたりこむHNにラフな格好をした寝癖男ZKが近づく。
「な…なんだ…今の。」
HNは指を震わせていた。
「だからどうしたって。」
「無数の数の羅列が…俺を…」
そこに、最深部への道から、誰かがやってきた。

「とったりー!」

ムービンだった。その手にはしっかりと、武器、メリケンサックがあった。
「やっほいメリケンサック(キラ-ン」
「何してんだあああああ!」
HNはムービンの勝手な行動に叫びをあげた。
「いや、だって武器とか格好いいじゃないか。欲しくて何が悪い」
「いやいやいや…」
HNの声は涙と共に消えていった。
「いいか?もう誰も取るなよ?いいな?」
HNは管理人として、安全の為に声をかけていっていた。だがその時。
「おい、後ろ。」
二牙の声で振り返ると、そこには、全身が灰色、しかし全てのスズランメンバーが、武器を持って立っていた。
「…え?」
すると、灰色のスズランメンバーが自分自身に向かって襲いかかっていった。
「おい、足止めをしておくから早く武器を取りに行け!」
ユキは駆け出し、ハルバートで飛び込んでいった。
「ムービンも戦ええええええ!」
言われてからハッとしたムービンは、足止めに加わった。
「…ッ!まさかこんなことになるとは…」
HNは、事態がよくわからないまま、焦りを感じていた。

「おんどりゃああああああ!」
動くだけでガシャガシャと鳴る、重く、動きが鈍るハルバートで全ての面子を相手に足止めをするのは無理があった。しかし、不幸中の幸いと言うべきか、これらの自分自身の分身は、本物よりも多少運動能力が劣っていた。
「せええええい!」
街中で暴れ散らす不良のようにムービンも戦っていた。

「くそっ!一人ずつしか入れねえんだったな。どうする…!?」
焦りを感じるHNに、無駄な洞察力の白秋が言った。
「おい、よく見ろ。ユキの武器と、敵のユキの武器、ムービンの武器と敵のムービンの武器。あれ一緒じゃないか?」
「ん、ああ、そうだな。」
「あの中で強そうな武器を持ってる奴から中に入って応戦に混じっていくのはどうだろう。」
「ふむ。それもそうだな。んで、一番強そうな武器持ってる奴って誰」
「お前だよ。速くいけ」
「え」
ゲシッと背中を蹴られ、HNは道を進んでいった。
敵の灰色HNの武器は、長身の剣。何やら青いオーラを纏っており、いかにも主人公です臭がする。


「戻ってきたぞ!」
HNの雄叫びが響いた。
「遅い!43秒!」
典型的なもやしっ子のアステルが突っ込む。
「えええ…、とりあえず戦闘に混じればいいんだな。」
HNが駆け出し、剣を振るう。
「いっけええええええええ!!!」
HNの加勢により、戦況は楽になったが、やはり厳しいまま。
そのまま、スズラン住民は次々と武器を取っていった。

「やっとか…」
戦闘が始まって約10分。
スズラン民の殆どが武器を取り、自分自身との戦いを行っていた。
「もう無理。ばたんきゅー」
ユキは相手と数歩距離を取り、
「HN、任せた」
と言い捨て、休憩に入ってしまった。
「何してんだよお前えええッ」
HNの叫びも届かず、ユキの分身も仕方なくHNが止めていた。
「そうりゃああああ!!」
声の主は二牙。彼は1m50cm程のランスで自分自身の分身の胸を貫いていた。
「どやあぁ」
「「「(こ、こいつうぜー)」」」
「終わったなら手伝えボケ」
どや顔をかます二牙にユキが言った。
「へいへい…ってお前休んでんじゃねーか!!」
ノリ突っ込みも健在。が。
「俺はいいんだよ。いっぱい戦ったから」
「ぐ…納得いかねえ…」


「片付いたか?」
HNが声をかける。
「みたいだな。しっかし、自分自身を殺すっていうのは気味が悪くてしょうがない。」
ZKが返す。灰色の自分自身はやられた後は砂になってしまっている。
「しかし…なんなんだこれは…」
HNは非現実じみた事に焦りを感じている。
すると、階段から一人の人物が降りてきた。
「やぁ、君達は全員合格だね。」
引き締まったスーツを着た、渋いオジサンであった。彼は陽気そうな人柄で、しかし、隙などはなかった。
「合格ってどういうことかな?」
怖い視線を投げつけるはり。
「いやはや、合格って言われると気分がいいだろう?」
「そうだな」
ユキは棒読みで返す。オジサンは続ける。
「まぁとりあえず簡単に説明してお「そうだな」くとだな、君達は私の在する組織であ「そうだな」る通称[catastrophe]の…って君聞く気ないよね!?」
「うん」
「いやいや、君は聞く気がなくても気になっている人はいるは…」
「オジサン、他の全員は部屋に戻ったよ」
その場所には、もう、他の住民は一人たりともいなかった。

「へぇ。カツカツ」
ここはユキの部屋。オジサンを入れて会話を行っている。因みにユキは飯を食べながら聞いている。
「じゃあさっきの続きから」
オジサンはどことなく目を真剣にした。
「私は[catastrophe]という団体に属しているこんな者だ。」
オジサンは名刺を差し出し、言った。
「[catastrophe]っていうのはね、今世界各地で起こっている戦闘を武力で介入して止める団体なんだよ」
「ソレ○タルビーイングみたいっすね」
「おい」
「冗談です。続きをどうぞ。」
「うむむ…それでだね、各地で戦える人材がいないかという人材集めをしてる訳だよ。勿論試験つきでね」
「そんなのに応募した覚えないんですけど」
「いや、此方で抽選をして、そこに寄っているのさ」
「果てしなく迷惑ですね」
「五月蝿いぞ。とりあえず君達はその抽選に選ばれた訳だ」
「だからってあの灰色の何かで戦闘させるなんて危険じゃないですか」
「大丈夫だ。あれは君達にダメージを与えない。ただ、襲いかかるフリをしているのさ」
「果てしなく迷惑ですね」
「…ゴホンッ…まぁ兎に角、合格した訳なんで君達はうちに入る権利を得た訳だ。」
「それはさておき、あの灰色のどうやって出来てるんですか?現代の技術じゃあんなのは無理なはず。」
「ふふん。知りたかったら入るのだな。…おっと、一度加入してしまえば退団出来なくなるがね。」
「じゃあやめます」
「案外あっさり!?お願いぃいい武器もあげるからぁああああ」
オジサンは飯を食べ終わって部屋を出ようとするユキの足に泣きながらしがみついてくる。
「はぁ…そんなの他の住人に聞いてからですよ」
ユキはロビーに行き、皆を集めた。

「はぁ、で、何?俺達に参加しろと?」
二牙がオジサンに語りかける。今、ロビーにスズラン住民が集合し、オジサンの話を聞き終わったところだ。さっきから飛び回っている蚊が鬱陶しい。
「まぁ、そうなるね。ああ、忘れていたよ。自己紹介をしなければね。私の名前は高田だ。」
ユキは名刺を渡されていた時点で分かっていた模様だが、他のみんなは名前をここで初めて知った模様である。
「それで、あの武器ですが、どうして一人ずつしか入れないようにしたんですか?」
GAMEがどうでも良かった疑問のうちの一つを問いかける。
「君達にも個性、特徴ってものがあってね。それによって相性の良い武器が異なってくるんだよ。」
「元々その、紛争地域で戦わせるつもりで武器を渡していたんですか…」
小さく頷き、また、こう彼は言った。
「君達にしか出来ないことなんだ。」
と。
「…何故俺達にしか出来ないんですか?」
シデンが問いかける。まぁ普通の疑問だ。
「配布された武器、見てみ。」
各自配布された武器をどこからともなく取り出す。
「何か、あるんですか?」
「いいや。それ以前の問題だ。」
「それ以前とは…?」
マジックハンドが問う。
「そう、君達は今武器を持っていたろ?」
「え…」
そう、各自、どこからともなく取り出したのだ。
「いつでも戦闘体勢が整っている証拠さ。今までこんなことなんてなかったよ」
「…」
「また、武力で介入だけじゃないさ。そんな荒々しい真似じゃ世界がうちを潰しにくるからね。世界に戦争がない、これが真の平和だと俺は思っている。」

今日は各自が自分と向き合い、戦闘に参加するかじっくり考える時間となった。
若い彼らには彼の言葉はどう響いたのであろうか。と。




追記.
世界観-各地で紛争が絶えない世界。日本は比較的平和だが、内戦が起こるかもしれないと噂されている。

武器-武器には使用者との相性があり、使用者が最大限まで能力を引き出せる武器が本作では配布された。最大限に能力を引き出すとは、この世界ではどんなのであろうとも、武器に能力が宿っている。その能力の解放幅、ということだ。

catastrophe-ソレ○タルビーイング( じゃなくて各地で起こる紛争を止める組織。武人、能力者などが存在する。尚、能力者とは人全員がそうであり、苦難を乗り越えた時、酷い拷問等を幼い頃受けた時等に解放される。

ユキ str11+9 con13 dex11-4 pow14 app12 int17 siz12 edu14
アステル str12+2 con9 dex13 pow10 app13 int13 siz14 edu13 
sin str11 con11 dex15 pow12 app15 int12 siz11 edu15
白秋 str15+3 con12 dex10-1 pow13 app10 int11 siz16 edu15





HNは長身の剣を両手で持ち、高田の待つロビーに走っていた。前日の出来事に決心をつけ、HNは紛争を止めるべく行くことにしたのだ。
そして勢いよい扉を開け、言い放った。
「俺、catastropheに入団します!」
と。しかし、返ってきた返答はHNの予想を一つ上回っていた。
「君で最後だね。これで全員が揃った。」



「ついたぞ。ここが基地だ。」
スズラン荘は実は駅に近い。駅を利用し、幾つか駅を越えた所で、catastropheの基地のある駅に辿り着いた。また、そこから数十分しか歩いてはいない。
道中に聞いたことだがcatastropheの本拠地はイギリスにあるらしい。遠い話だ。
「凄い…デカいな…ここ。」
じゃぶじゃぶの発言から、ここがかなりの施設であるのが再度認識される。
「ここだ。ここに集まってくれ。」
高田の声に釣られ、施設に夢中になっていた住民達は走り出した。

「これだよ。」
高田が指差したのは、かつての大国アメリカだった。アメリカでは数十年前とは比べようもない程に治安が変わってきている。内部紛争が絶えないのだ。
「ここの内部紛争へ戦闘を君達には仕掛けて貰おうと思っている。」
高田は俺達に向かって、そう言ったのだ。

「まぁ、訓練もなしに行かせるわけじゃないさ。」
高田はまた歩きだし、そう喋りながら、一つの部屋で止まった。
「ここの部屋で君たちには3ヶ月の間訓練をしてもらうよ。」
高田が案内したのは、100畳はある広い和室だった。
「武器を出してごらん。」
高田の声と共にそれぞれ武器を出す。
「訓練ってどういうふうにするんですか?」
軽くsinが問いかける。高田はこう返事をした。
「君達同士で戦ってもらうんだよ。バトルトーナメント形式でね。そっちの方が楽しいだろう?」
とんでもなく、また愉快な発言だった。



「うぉおおおおおおおりゃああああ!!」
ブリュンッッッッ!!大きな風邪を斬る音。
日本刀を手にしたZKの一刀両断である。
「よっと。」
しかしその攻撃は、対戦相手であるゼロには回避され、反撃が下った。
「そうれっ!」
ゼロの手の内から発射される無数の弾。トカレフTT-33の射撃である。

「すっげー試合だなー」
「ですねー」
アステルとGAMEが体育座りしながら眺めている。さっきの試合の回想をして、今の試合と見比べているようだ。

「えいっ!たぁ!」
チェシャの装備は鍵爪であり、その長く、細い先端が相手に先程から何回も襲いかかっているのだが、
「わっ!わっ!」
スラの装備のリベットシールドにはじかれ、スラは攻撃出来ずで泥試合だった訳である。

「よう、どうだい、調子は。」
暫く部屋から離れていた高田が戻ってくる。
「順調ですよ。俺は強くなりたい。」
HNは強く拳を握っているのであった。

「せいっ!やぁあああ!」
大きく振り被る。じゃぶじゃぶのデスサイズ。それに対抗するのは二刀流。
「うわあぁ!危ない!危ないってえ!」
バールとスパナの使い手である白秋だ。

「さっきからあいつ何気に器用ですね。デスサイズをバールで受け止めてその間に本体にスパナを投擲したりとか。」
「うむ。みたいだね。」
HNと高田は語る。しかし対戦順では次はHNの対戦の番である。

「落ちろぉぉ!!」
バールで受け止められないようにギアを変え、速度重視で振り降ろされた鎌。
ズドンッ…!
勝負あったかのように思われた。しかし、
「ふんぬ…!!」
さっきの投擲で見失ったスパナが取れず、苦戦を強いられていた白秋だが、右手の人指し指と中指の関節でデスサイズの真剣白刃取を収め、その状態に若干見とれていて、身動きが取れなかったじゃぶじゃぶに、バールの一撃をかましていた。

「なんかあいつヤバくないですか」
「うーん、彼は能力の開化が少し早いようだね。反射神経が格段に上がっている。」
「そうみたいですね。おっと、次は俺か。」
「行ってらっしゃい。」
高田との会話を終え、HNは長身の剣を両手で持ち、次の対戦相手を確認した。
「えーと、次は…」
「僕だよ」
HNの前に現れたのは巨大なハルバートを背負ったユキだった。

カシャン…カシャン…
ユキが歩くだけで鎖がついたハルバートの音が鳴る。これが初戦のマッチでの対戦相手。HNは長身の剣に力を込めた。

「ありゃあ…負けるね。」
高田の独り言に、聞き返す者がいた。
「どちらがだ?」
二牙である。肩に槍を据え、両手で抱えている状態である。
「長身の剣の方がだ。ハルバート持ちの動きをよく見ておけ。」

「うらぁあああああ!」
両手で握られた剣を自分の前に据え、HNはユキに向かって駆けて行く。
HNの持つ長身の剣の柄からは蒼い光が漏れだし、それが収束され、波動となった。
「喰らええええええっ!」
蒼の波動はユキに向かって一辺倒に飛んでいく。しかしユキは、
「それっと」
ハルバートで奇怪な波動を全て受け止めたのである。

「HNの能力の覚醒も速いが、相手に問題がある。ハルバートっていうのは使い方次第で武器にも盾にもなりうるからね。」
「あの光はなんすか」
「あれは、24種類の能力の内の優秀な部類だね。種類としては、[アーサー]に属している。」
「[アーサー]?」
「ああ、言ってなかったね。覚醒能力には固定の種類があるんだ。アグロヴェル、アグラヴェイン、アレミラ、アレスタント、ベディヴィア、ボールス、ユンスタンチン、エクタード・マリス、フローレンス、ランスロット、ガヘリス、ガラハッド、ガレス、ガウェイン、モルドレッド、ゲライント、ケイ、ラモラック、ルーカン、パロシデス、パーシヴァル、トリスタン、ユーウェイン、アーサー…とね。」
「へぇ。」
「でも見たまえ、ハルバート持ちも既に能力が覚醒しているようだ。」

「…」
ユキのハルバートからは灰色の光が滲み出ていた。

「彼の能力は、ガウェインに起源するようだ。」

「灰色の…光…?」
HNは目の前のユキが放つ光に気を取られていた。自分の光にも気付かないぐらいに。
「そうれっ!」
ユキが振り下ろしたハルバートは振り下ろした瞬間、灰色から赤色に変色し、HNを襲った。
「くっ!」
HNはハルバートの一斬を間一髪で回避したが、かすれた部分が若干焦げていた。また、振り下ろした部分の頑丈な造りになっていた畳が、真っ黒に焦げていたのだ。
「なっ…!?」
HNの悲鳴にもならない声よりも先に、次の攻撃が出る。HNも流石に避けきれないと悟ったのか、被害を最小限に受け流すことを考えた。
すると、HNの全身を剣からでていた蒼い光が包んだ。
「む…っ」
ユキの大振りは回避され、HNが消えていた。次の瞬間、HNが現れたのはユキの後方、そして剣でユキをなぎ倒した。

「な、こんなことがあり得るのか…!?」
HNの覚醒能力を見て、高田は圧倒される。
「どうかしたのか?」
二牙の問いかけに、高田は震え、答えた。
「彼は、多重能力者だ。それも、[アーサー]と[マーリン]のクラスに属している…!」
と。

「[アーサー]と[マーリン]?」
二牙はHNの能力を見て聞いた。
「そう。彼の起源だよ。それによって彼は、光の波動と、透明化の能力を手に入れた訳だ。」
高田は先程の戦闘でのHNの能力が2種類あることを見抜いた。本来、多重能力者とは異端扱いなのである。
「俺には何の能力があるんすかね」
「[パーシヴァル]じゃないかな?」
「また聞いたことのない…」
「まぁそれはさておき、よく見たまえ、まだ戦いは終わっていないようだ。」

「やったか…?」
砂煙みたいな埃が舞い散る中、HNはユキの動きが見えずにいた。
「…どこだ……ん?」
せいやぁあああああっ!」
次の瞬間、HNの頭上から、巨大なハルバートと共に、ユキが降ってきていた。
「な、いつの間に!?」
HNは受け止める暇がなく、オート仕様のインビジブルを展開した。だが。
「それっ!」
ユキの畳に深く刺さったハルバードは、再び熱気を帯び、やがて畳を燃やすに至った。
「あつっ!」
インビジブルとは、物理攻撃にのみ、かなり有効な回避手段となりうるが、電気や熱、ましてや、水を浴びせられただけで、状態が解けてしまうのである。また、即座に展開、というのも不可能なのである。
「そこかっ!」
ハルバートに付属するチェーンにより、HNを巻き上げ、ハルバートで、とどめを刺した。
「うぐぁ…!」
勿論、死んではいない。


「ヒヤヒヤする戦いだったな。」
GAMEの言葉に軽く会釈をつけて休憩に入る。
「ん…次はお前の試合のようだが?」
ユキはGAMEに問いかける。
「へ?誰とさ。」
「G.MAT。」
GAMEの初戦のマッチは、GAMEと一緒に体育座りでずっと見学していた人物であった。
「今回はまた、変わった組み合わせで。」
高田と二牙が会話している。HNに至っては、疲れきって寝ている始末だ。
「ふむ。何かトリッキーな戦いになりそうだ。」


「お手柔らかに。」
G.MATは、右手でナイフを構えた。それに対し、GAMEは、クロスボウを大きく構え、G.MATに突き出している。
「こちらの弓の残数は今構えているのを含めて6本だ。全て回避出来たら、自動的に君の勝ち、ということになるね。」
GAMEは早速の一本目をG.MATの足下に撃った。それは、誰から見ても、明らかにワザと外したようにしか見えなかった。
「いいのか?一本目を無駄にして?」
「いいんだよ。試し撃ちだよ。」
GAMEがクロスボウに次の弓を取り付けているところで、G.MATは動きだした。
「隙がありすぎじゃないのかっ?」
G.MATの踏み込みで突き出されたナイフ。だがGAMEは、そのナイフをクロスボウ自体で薙払った。
「なっ!?」
ナイフは弾き飛ばされ、畳に突き刺さった。
「さて、2発目、いくよ?」
G.MATがナイフを取りに行く前に、GAMEはクロスボウを構え、狙う先は、

G.MATでなく、飛んでいったナイフであった。

「まるで策士だな」
高田の発言により、二牙はGAMEを相手にはしたくない、と思うのであった。

「さて、どうするかな?G.MATは。」
高田は武器を失ったG.MATを見て言った。
戦いは降参するか、気絶するかしかない。高田の目にはG.MATがそう簡単に諦めるようには見えなかった。


「どうしたんだい?降参しないのかい?」
GAMEはG.MATを横目で見る。
これは、痛い目を見たくなければ、降参した方が良いだろう。だが、クロスボウ一発分でナイフを取り戻せるのである。
「…」
何も言わずにG.MATはナイフに駆け寄った。それと同時にGAMEはクロスボウを、

撃つことなく、何もない方向に走り出した。

「…なっ!?」
G.MATがナイフに手が届こうとした瞬間だった、GAMEの2本目の弓が発射される。それは、ナイフを弾き、GAMEが立っていた位置に飛んでいった。
「嘘だろ…?」
GAMEはナイフをキャッチし、弓は、G.MATの手に直撃した。手からはドクドクと血が滲み出す。
「うっ…これからどうしろってんだ…」
利き手が封じられ、武器さえも奪われているのだ。もう成す術が見つからない。
「とどめだ。」
GAMEは3本目の弓を手にかけた。
GAMEは皮肉かのごとく、3本目の弓の先端にナイフを括りつけた。
「いくよ。」
手の痛みで、動くことさえままならないG.MATにGAMEが絶対射程圏内まで駆け寄る。
「それっ!」
GAMEの3本目は射出された。

まず、本来人間という物は、痛みを感じる。しかし、一つ痛みを感じてからまた別の場所に痛みを感じることがあれば、そっちの痛みが気になって、前の場所の痛みが感じなくなることがある。
そして、弓とは、銃なんかよりは余程遅く、視認出来る可能性がある。それも身体能力が底上げされることがあれば、だが。

「こりゃあもう勝負決まったんじゃねーの?」
鼻ほじr(禁則事項です)ながら、二牙は背もたれに倒れかかる。しかし高田は、まだ、そんな発言はしなかった。


「…」
G.MATは気を集中させている。それは、相手の一撃を見極める為の一点集中である。また、右足で、左足を強く踏みつけていた。手の痛みに気付かぬよう、足に負担をかけているのである。
「何だ?その、お前の光。」
GAMEは構えた所で気がついた。
G.MATから緑色の光が出ていることに。
「…まぁいいか。」
GAMEの放つ一撃は迷いもなく、G.MATの胸に飛んでいった。心臓かすれかすれで当たったら死ぬかもしれないような攻撃だ。

「[ユーウェイン]だな」
高田は小さく呟いた。

「…ッ!」
途端、G.MATは横に反れ、弓をその瞬間に掴んだ。その一瞬の間だった。
「…なんだと!?」
GAMEが声を上げ、尚且つ、次の瞬間、GAMEの腹にはナイフが突き刺さっていた。

「カウンター攻撃だね。[ユーウェイン]のランクに与えられた能力か。」
「[ユーウェイン]ってなんすか」
「クラスの一つ」
「いや、知ってますって」

GAMEはそのまま倒れ込んだ。気絶判定、勝利はG.MATにあった。

「ナイスファイト。」
そして、わああああああ!と、見学勢も歓声に包まれたようだ。





HN…長身の剣
ZK…黒刀
二牙…1m50cm程の槍
ムービン…メリケンサック
ユキ…チェーン付属ハルバート
スラ…リベットシールド
GAME…クロスボウ
はり…チェーンウィップ
白秋…バール&スパナ
マジックハンド…バレットM82
じゃぶじゃぶ…デスサイズ
チェシャ…鍵爪
G.MAT…ナイフ
シデン…スタンガン
sin…エラッド

大体こんなもんか。





「えっと次の対戦は…」
背もたれにもたれながら二牙が配布されたプリントを眺める。
「君だよ。二牙君。」
高田の声に反応するように、二牙は、
「あ、本当だ。俺だ。」
と、言った。

「対戦相手誰だっけ」
槍を肩にかけ、両手で支えてる状態のまま前に踏み込んだ二牙。それと同時に立つ者がいた。
「俺だぜ」
ムービンだ。メリケンサックを手に装着し、前に出ていった。
「なんだお前かよツマンネーな。もっと強い奴と戦いたかったぜ。ったくよー。」
二牙の軽い挑発により、ムービンの額からは、アニメでお目にかかれるような血管が浮き出ていた。
「ほぅ、調子に乗ったこと…」
ムービンは左足を後ろに下げ、かがみ、
「後悔させてやるぜええええ!!!」
加速を付けて、前に突進していった。
「攻撃一辺倒で勝てると思うな阿呆が」
二牙は、その発言の直後、槍を構え、前に突き出す姿勢のまま待機していた。
「うわぁぁあ!」
自分で止まることも出来ず、加速してしまったムービンは二牙の槍にそのまま…

「もう分かったろ、やめとけやめとけ」
槍を元の体制に戻し、ムービンの突進をするりと回避した二牙は帰っていこうとした。
「あー!待て待て待てぇ!」
「なんだよ」
「こんなんで納得出来るかよ!正々堂々としやがれ!」
ムービンは、二牙に殴りかかろうとした、その時、ムービンのメリケンサックのパンチには光が灯っていた。黄色の。
「ッ」
ガッ…はじくように、間一髪で槍で二牙は受け流した。二牙はムービンに好奇の視線をよせ、笑った。
「たかだか単純な怒りの感情ごときが覚醒に繋がるのか。面白い、やってやろうじゃねーか。」
二牙は槍を握り直した。
「そうこなくっちゃあ!」
ムービンの手に灯る光は火力がブーストしているように見えた。

高田はシデンに話しかけていた。
「君はどう思う?」
「どうって…何がですか?」
スタンガンの整備をしているシデンは質問の意味がよく分かっていなかった。
「今の試合だよ。」
「うーん…二牙が武器的に優勢ってところですかね。」
シデンは客観的に見た判断を言った。
「こういう考え方もある。ムービンが覚醒したから何とか出来そうだな、と。」
「ふむ。」
「見たまえ、ムービンも互角に戦っているよ。見たところ君の武器は不遇っぽいが君も覚醒次第では優位に戦えるかもしれない、ということだ。」
「覚醒…ですか。」

「おらぁ!」
ムービンは右ストレートしかさっきから打っていない。左ジャブじゃ、二牙の武器に打ち負けるからである。
「む…」
二牙の槍の動きは速い。ましてや常人の拳ではとても追いつけないスラッシュレイブである。しかし、ムービンの手の光。それがブーストを起こしている為、火力、素早さ共に互角まで追いつかれているのである。
また、槍を動かすというのは、普段使わない筋肉も使用する為、非常に疲れ易いのもある。
「おらおらぁ!」
「…っ」
二牙は手に負担を感じたのか距離を取って攻めることを考えた。通常、槍のリーチではムービンのような、接近型には有利なのだが、どうにも光の効果で射程範囲も伸びているように見える。
(どうでもいい事書くならムービンの手は今ポケモンバシャーモみたいになってる。)

「せぇえええい!」
ムービンは、今確実に、有利であった。


「彼の能力は何に該当するんです?」
シデンは高田に問いかけた。
「あれは、[パロシデス]のクラスだろうな」
ムービンの手はまるで大砲のように動いていた。

二牙は、距離を取った。
一度ムービンから距離を取ってしまえば、単調な突進しかしてこないムービンには有利なのである。
「はっ…はっ…」
既に息は切れかけている。しかしムービンは余裕しゃくしゃくの顔である。正直憎たらしい。
「…はっ…はっ…ようし、かかってこいよ!ムービン!」
二牙の挑発にムービンは望むところと言わんばかりに加速した。ここで二牙の想定外の事が起きた。挑発してから2秒と経っていないのに、15m程開けた距離をムービンは詰めて攻撃してきたのだ。
「そいやっさぁああああ!」
ムービンのメリケンサックが二牙の腹に食い込む。
「ぐっ…!?」
二牙は加速のメリケンサックを直に受け、10mは吹き飛んだ。その時、ムービンの足にもブーストがされていたのが見えた。

二牙はそのまま倒れこまずに、爆転を利用して再度立つことが出来た、が。腹にめり込んだ時に臓器がぐしゃぐしゃになっているのではないかという位の吐き気に襲われた。
「どうしたぁ?降参しないのかぁ?」
ムービンの軽はずみな台詞に二牙はかなり、イラっときた。その弾みで二牙の何かがぷつっと切れてしまった。
「上等だぁああああ!覚悟は出来てるんだろうなあああああ!」
底力を振り絞って出した声と共に、二牙に青色の光が灯った。

「へへっ。何しても無駄だっつの!」
ムービンの加速ラッシュにより、攻撃は再開される。この時、二牙は目を瞑った。
怖いのではない。感じているのである。
「そうれえええええええ!」
ムービンの一発目の右ストレート。常人には回避出来ないスピードで打ち出された一撃、しかし、二牙は槍で打ち返さず、避けるような真似もしなかった。何故ならば、“既にムービンの攻撃から避けていたからである。”

「あれは何だと思うかね?」
高田はシデンに問いかける。
「分かりません、ただ、二牙、目ぇ瞑ってますね。」
「そうだ。あれが[パーシヴァル]のクラスの能力の一つ、真眼だ。」

「なっ…!?」
そこから二牙の槍のリーチにより、ムービンは15連撃。攻撃され、気絶した。

「あれはね、相手の攻撃を先読みし、回避してから後から攻撃するんだ。そっちの方が相手の隙が多いからね。」
「それだけじゃないんでしょう?」
「あぁ、彼には、もうムービンの動きが全て、見えているだろうね。」

「…ざまーみろ」
ムービンは気絶した。二牙はそれと同時に座りこんでしまった。
そこにいつから起きたのかHNがやってきていた。
「いい試合、見せてもらったよ。」
見学はどおおおおお!と盛り上がっていた。




1回戦…DROW
2回戦…未記録
3回戦…勝者 白秋
4回戦…勝者 ユキ
5回戦…勝者 G.MAT
6回戦…勝者 二牙




〜2回戦回想〜

「さて、次の対戦相手はZKとゼロだな。」
HNは対戦表を眺め、楽しみそうに言った。
「君はどちらが優勢かと思うかね?」
高田はHNに向けて問いかける。
「うーん、やっぱり遠距離攻撃って強いですよね。ゼロが優勢かと。あー、でもでもZKも捨てられない…」
「はは、君は優柔不断なようだ。」
「…はい。」

「さて、対戦相手は君か。」
腰に据えた、黒い刀を取り出し、ZKはゼロに向けた。手加減はしないぞ。と語りかけているような気がした。
一方のゼロは陽気にトカレフTT-33を担いでいた。
「じゃあ、行くぞ。」
ZKは駆け出し、黒刀をジャンプしてからゼロに叩きつけようとしたが、ゼロはすかさず、トカレフを盾に使った。
トカレフはこの程度では簡単に壊れず、既に弾丸が込められていたトカレフから数発、のけぞった、ZKに撃った。
ZKはその体勢では回避など出来なかった為、黒刀で弾き飛ばすことにした。しかし、一つは当たるのは覚悟だろう。どれを弾くか。
「これだっ!」
ZKは足と手に飛んできた弾を全てはじいた。だが、腹に飛んできた弾ははじかなかった。
「うっ…!」
「どうして致命傷になりうるのをはじかなかったんだい?」
ゼロの問いは誰でも気になることだった。
ZKは腹に攻撃を受けながらでも答えた。
「手足に当てられちゃ、ロクな動きが取れないからなっ…ぐっ」
と。

「これでも君はZKがも捨て難いと思うかね?」
高田がまた、HNに質問をふっかける。
「はい!ZKは絶対状況を覆しますよー」
HNのハキハキとした声に近くで座っていた二牙はは小さく、
「何の期待をしているんだこいつは…」
と、呟いた。

「さて、どうする?このまま続ける?降参する?」
ゼロはもう既に勝負がついたかのように喋った、けれどもZKに向かっては決して銃口を降ろさなかった。
「降参なんてしてたまるかよっ!」
喋るのがつらいにも関わらず、ZKは大きな声を出し、突進して行った。
「よく言った!」
ゼロは続けざまに4、5発放った。
3、4発は常人ならぬ、持ち前の反応速度と、外しで回避出来るが、必ず、一発は当たってしまう。それにより、またZKは、脇腹に一発、入れられてしまった。
「うっ…!!」
それでも走るのをやめなかった。
「くっ、止まらないか…!」
ゼロは一度引き、再度、引き金を引いた。しかし、その隙が甘かった。ZKはその瞬間に最も、加速し、ゼロに一撃を…
「うぉおおおおおおおりゃああああ!!」
ブリュンッッッッ!!大きな風を斬る音。
それは、あくまで風を斬ってしまい、ゼロには回避されてしまったのである。
ゼロの手の内から、無数のトカレフTT-33の弾が発射された。

「君は、どんな時に覚醒というものが起こると思うかね?」
高田はHNに投げかけた。
「えー…ク○リンのことかぁあああ!!…ってなる時ですかね?」
「こら、よしなさい。…それはさておき、私はね、覚醒っていうのは感情の起伏が激しくなった時、仲間のピンチの時、そして、自分のピンチの時って言うのが挙げられると思うんだ。」
「ふむ…ZKは今若干ピンチですね。」
「ははっ。そうみたいだね。」


ゼロからの無数の弾丸。これを大振りで隙を見せまくった今、回避は難しいだろう。また、刀ではじけるのは手前のみ、絶対当てまいと思っていた、手足に当たることになるだろう。
そして、直撃した。
「うぁああああ!!!」
言葉にならない叫びであった。
「どうだい…?」
手足全て使用不能である。しかし、
「こんなところで負けてられっかよ…!」
ZKの全身は赤い光に包まれていた。

「彼は覚醒したようだね。彼の能力は[ガレス]に該当するだろう」
「なんすかそれ。」
「後の試合で説明するよ、彼に解放された能力は、あらゆる自分に対するデメリットを無効化する、だ。」

「な、なんだい、それは?」
ZKの赤い光に少々気が引けながらも銃口は突き出し、撃った。
「体が、言うことをきく!」
飛ぶ弾を全て回避、はじいたりをして、ZKは、ゼロの正面までやってきた。
「終わりだ!」
ZKは、その黒刀で、ゼロを一刀した。

「まだ試合してない人も少なくなってきましたね。もうすぐ俺かな?」
そろそろスタンガンを構え出すシデン。
「ん、違うよ。次はマジックハンド対はりになってるよ」
HNは配布されたプリントを横目に告げる。
「あー、じゃあ俺は最後の試合か…」
シデンは落胆して、元の場所にへたりこんだ。

「マジックハンドはどこいったんだろ…」
周囲をキョロキョロ見回すはり、しかしマジックハンドはどこにも見当たらない。
その時だった。はりのすぐ隣に少し大きめの弾丸が大きな音と同時に飛んできたのだ。
「…!?」
はりは、音の鳴った方角が、西から、ということしか分からなかった。しかし西には何も見えない。

「チッ…外したか。」
マジックハンドは、天井裏に歩伏前進の体勢で、微かに開けた穴からはりの様子を伺っていた。
天井裏に続く梯子は、この150m近くある和室…いや、道場の西の端にあった。
余り置物はないが、ここは物置になっていた。

「…もう始まっているという訳ですか。」
はりはジャラジャラと鳴るチェーンウィップを取り出し、もう一度、周囲を確認した。西には何もない。…?いや、梯子がある。そしてマジックハンドの武器は狙撃銃であったことが思い出される。正面からやっていたら、隙がありすぎる武器だろう。
「ははっ。高田さーん、ここには天井裏がありますかーっ?」
出来る限り大きな声を出して質問した。
「あるぞ」
高田の返答を聞いて、はりは確信した。
はりは梯子に向かって、走り出した。だが、そこで2弾目が飛んできた。
その2弾目ははりの膝を打ち抜いた。

「うぐっ……」
はりは膝を抱えてしゃがみ込んだ。ジャラジャラと音が鳴る。尋常じゃない痛み。少なくとも歩けない。そう歩けはしない。

「なんか一方的っすね。」
「みたいだね。高田さんはどう思います?」
高田はふむと考え込み、一つ。
「覚醒が起きてないし何とも、ね。」

「歩けなさそうだけど…うん?」
はりは自分のチェーンウィップを見た。全長は最大で8mぐらい。先端に尖った物がついている。両方の。
「…一か八か、だね。」

「あれ、弾なくなってる。…初期は2発しか入ってなかったのかよ。」
予備弾層を次々と込めていく。足場が悪いのか少々込めるのに時間がかかる。
その時、ガッ…と音がした。
「ん…?何か音がしたけど…気のせいだよな?」
マジハンは予備弾層を次々に込めていった。

「く…」
はりは天井に引っ掛けたチェーンを伝って、登って行っていた。流れ落ちる血液。機転を利かせた作戦だ。天井に張り付いていれば、マジハンからは見つけられない。しかし、だ。彼女は負傷の身。

…そして、手を滑らせた。
「うわぁああああ!」
ズドン。足の負傷している状態、そして3m位の高さからの落下。

「お、おい。あれ大丈夫なのかよ。」
二牙が心配そうに見ている。
「お、丁度だよ」
高田は言った。直後、はりが落ちた地点から紫色の光が滲み出ていた。

「彼女の覚醒は、[モルドレッド]のクラスのようだ。自分の体を無意識で抑圧しているようだね。」
「つまりはどういうことですかね」
「人間って言うのはね、自分が不可能だと思うから力を制御しちゃうんだよ。」
「怒りに身を任せたら何でも出来そうな気がするけど…」
「そう言う問題じゃない。君は自分の足が沈む前に次の足を出したら水の上を走れると言われたとする。走れると思うかい?」
「無理っすね。人間には限界がありますから」
「今の彼女は人間という提さえ無意識によって抑圧している。」

「さてと。」
弾層を込め終わった後、マジックハンドは再び、狙撃銃を構えた。
その瞬間だった。バキィ!と近くで音がした。
「また音か…ネズミでも住んでんのかな」
気を散らされたと少し憤慨したがマジハンは焦点を合わせた。さっきの場所ではりを見つけた。そして、もう一度、撃つ…

撃った瞬間、バレットM82は暴発した。


「はり、天井に向けてチェーンウィップ飛ばしてましたけど何してたんでしょうね。」
「ほら、目を細めてみてみなさい。あそこ、微かに天井から穴が幾つか開いている。彼女はそこに向かってチェーンウィップを投げ込んだ。」
「それで、どうなったんです?」
「そこの穴に銃口を向けていたマジックハンドはチェーンウィップを銃口にさされても気付かなかった。そして暴発した。」
「バレットM82なら普通にチェーンウィップくらい破壊しそうなんですけど。」
「あぁ、あれの先端部分はね、ダイヤモンドで出来ているんだ。」

「なんか戦いが高度過ぎてついていけない…」
シデンが横目で言う。
「私もだよ…」
次の対戦相手であるsinも言った。

今、道場の真ん中に、シデンとsinが立っている。シデンはsinの方を見つめていた。いや、正確にはsinの持つ大きめの拡声器をだ。明らかに違和感を醸し出している。
「…それが武器?」
シデンは恐る恐る訪ねこんだ。
「うん、そうだよー。エラッドって言うんだよー。」
sinはエラッドを片手に交互に持ち、その間暇になった手で耳栓を突っ込んでいた。
「じゃあいくよー。」
sinはそのエラッドの音量を最大音量にして、叫んだ。


「五月蝿っ!?」
うとうとしかけていた二牙が一気に飛び起きた。
「やぁ、起きたかい?」
HNと高田は耳栓を装着していた。
「今から試合が始まるようだよ。」

「うわああ」
持っていたスタンガンを思わず落とし、耳を塞ぐ。鼓膜が破れそうな声だ。まさに砲撃。
「ふぅ」
エラッドから音の割れる音がする。
ピィッ…ピィギギ…
凄く不愉快で、頭に残る音である。
シデンは何か対抗策がないか、焦っていた。

とりあえずシデンは、スタンガンを拾い上げ、距離を取った。5m程の距離だったらこちらの耳が壊れてしまう。
「待ってよー。逃げなくてもいいのにー。」
sinから遠ざかっていると、遂に見学勢の近くに来てしまった。
「ちょ、こっちくんな!」
「耳が壊れる!あっちでやってくれ!」
飛んでくるのは罵詈雑言だ。
「…ん?」
そこで高田とHNが耳栓をしているのが見えた。シデンはすぐさま駆け寄り、HNに、
「借りてくぜ!」
と耳栓を奪い取ろうとした、が。
「させるか!」
と、インビジブルでかわされてしまった。
高田から取ると何か言われそうだ。
「ほら、君、エラッドが来たぞ。」
高田の声でこんなことしてる暇は少ないことに気がついた。

「…くそ…」
シデンは走っていた。しかし、耳栓がなければ、音が邪魔で戦いにもならない。
しかし奴等は耳栓を渡してはくれない。高田から取るのは気が引ける。HNから奪うのが得策だろう。しかしHNは取ろうとするとインビジブルを発動する。シデンはポケットにスタンガンを忍ばせた。
「…?スタンガン…?」
再びシデンはスタンガンを取り出した。HNはインビジブルを展開中は特殊な攻撃…水、電気、炎等に攻撃されると解けてしまう、ということを思い出した。そして、スタンガンは電気攻撃である。
「やってみるか…」
シデンはまた、HN達の方向に走り出した。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
耳を壊すような大きな音が聞こえてくる。しかし、それを防ぐ為に第一優先なのが耳栓なのだ。両手で耳を抑えつつ走った。

「HN!その耳栓いただいたああああ!」
駆けるシデン。
「また来るのか!?しつこいぞ!」
その度にインビジブルを展開するHN。
「はは、甘いぜ!」
持っていたスタンガンで放電する。
「なっ…おまっ…!?」
ジジジッ…ボフッ!…。その音でHNは見事に気絶させられた。
「フフッ…ついに耳栓が…」
ガコン。耳栓を手にしたところで、既に彼にその先の記憶はなかった。
「ごめんねー。」
sinは鈍器としてエラッドを使って、シデンを殴っていた。
「気絶判定。sinの勝ちだな。」
高田の言葉でsinの勝ちが決まった。





シデン「解せぬ」