No.2『円卓の住人』スズラン小説/作:ユキ/提供:スズラン荘

円卓の住人-02



「敗者復活戦だぁ?」
二牙がたるそうに立っている高田を下から見上げる。
「うむ。訓練でもこれぐらいしないと盛り上がらないからね」
高田は戦闘で負けてしまった人達に向けて、言い放った。
「1ラウンド1回戦で、DROWになっていて、2ラウンド目1回戦に出場出来る枠が一つだけ開いている。ここで敗北者全員には一斉に戦ってもらって、勝利した者を、この枠に入れようと思う」

「え!?マジかよ!?」
「きたーっ!」
「え?まだチャンスあるん?」

「そうした方がモチベーションが上がると思ってね。あぁ、それと今更だが、この訓練での優勝者には何かいいことがあるかもしれないよっと。」
高田はニコニコしながらそう言った。一体この人はどこまで本気なのだろうか。

「あー、あの。俺はどうすれば…?」
武器を失ったマジハンが駆け寄る。
「あー…バレットM82って高いから予備あったっけ…」
高田は一瞬呆けた挙げ句、ちょっとその場から立ち去り、一つの機関銃を持ってきた。
「仕方ないからこのM60を使っててくれ。」
「え…」
〆〆

100畳程の大きな和室。
先程までの戦闘と違い、そこには戦闘で負けた者達が集まっていた。
「そろそろ始めてくれてOKだ。」
高田の声で各自、所持している武器を構える。剣、銃等その種類は様々である。
一番初めに動き出したのはHNだった。
「…っ!」
HNは和室の中心へと走って行った。向かう者にそれぞれは避け、HNは中心に何もなく、辿り着けた。
「まぁ攻撃しようとインビジブルが発動するだけだけどな」
二牙の冷静な分析は言うまでもないことであり、皆承知している。
「<光の波動>だっ!」
HNの声により、剣を畳に突き立てたHNを中心に波動が拡散する。
光の波動とは、名前こそ光の波動だが、本当は光を操っている訳ではない。辺りに散らばる汚染された空気を吸収し、浄化、それを刃として拡散するだけなのである。
まぁユキのハルバートを盾代わりに防がれるなど、威力は期待出来た物ではないが。

各自、防御体制に入る。HNを中心に拡散している為、波動は外に、外に広がり、回避というものはほぼ不可能だ。天井裏なら、回避出来るかもしれないがそこまで走るにはやや遅い。
「よっ…」
ガション。スラがリベットシールドを前に突き出す。シールドという提だけあり、武器を盾にするよりは性能がいい。
「…」
そのスラの後ろに隠れる人影一つ。
GAMEだ。彼はクロスボウという武器を所持している、だがそれは盾に代用出来る大きさをほこっている訳ではない。この攻撃を避ける為には、こういう戦い方も必要なのだ。波動に触れると、少なくとも刀で切られたような痛みになるだろう。そんな攻撃には触れたくないものだ。

広がる光。周囲は閃光弾でも放たれたようにフラッシュしていた。
「げ…」
ここに一人、回避も、受けることも出来ない人物がいた。シデンだ。
「もしかしてもう間に合わないパターンですか?ははっ、まさか」
…うわあああああああああああ!
悲痛な叫びだった。

そしてここにも。
「鍵爪でどうしろと」
チェシャだ。手にはめ込む形の鍵爪、それが彼女の武器。しかし光の波動を受け切るスペックもなかった。
「…」
ただひたすらに天井を眺め、散り逝く姿。
しかし、そこに一筋の光があった。

「こんなところで死ねるかぁぁいっ!」
それは先程まで絶望を悟っていたシデンだった。彼から滲む、黄緑色の光。
それが彼の持つスタンガンから放出される電撃を過度に増大させ、大量の電撃波として、光の波動にぶつかり合っているのである。偶然シデンの近くにいたチェシャは光の波動の餌食にはならず、シデンに守られた訳である。

「あれはね、[ケイ]のクラスに属している能力だ。自分の武器が水、電気、炎等の特殊な攻撃方法を経て攻撃する場合、その特殊攻撃を助長する力がある。」
高田はこのぶつかり合いを見て、言った。
「じゃあ武器がないと意味がないってことですね」
「…」
二牙の言葉に高田は沈黙を守った。

「なっ!?シデンが!?」
HNが発動する波動が受け止められ、(拡散していた為、受け止められなかった光もあるが、シデンの周りに飛ぶ波動は受け止められた。)HNは少々驚きを交えた。
しかし、
「面白いじゃないか!次はこれだっ!」
HNは西洋の物と思われる長身の剣を構え、シデンの居る方向に走って行った。

シデンとHNが戦っている最中、また別の場所では戦闘が起こっていた。
ここは天井裏。
「やぁ、奇遇だね。こんなところで逢うなんて。」
口では陽気に笑っているが目は笑っていない。ゼロはそこに立っていた人物にトカレフTT-33を構えていた。
「おや、侵入者か。」
ガチャリ、その人物はここが既に自分の場所であるかのようにM60機関銃を構えていた。
マジックハンドだ。
「はりとのバトル、ゾッとしたよ。隠れて狙われちゃ話にならない。」
ゼロはマジックハンドを賞賛した。
「そりゃおかげさまで。しかしこっちは大切な武器を変えられてショボ暮れてる気分なんだ。」
マジックハンドはそう言うと、間髪入れずに機関銃をゼロに向けて放った。連射は止まらない。
「こっちはそう言うつもりでここに来た訳じゃないんだけどな」
ゼロはより頑丈に出来ている防弾服を盾に、機関銃での衝撃を避けていた。
「じゃあどういう要件だい?」
一通り撃ち終えたマジックハンドは切れた弾丸を再度仕込み、構えた。
「協力しようよ。」


「おりゃああああああ!!!」
HNの振り被る西洋風の長剣。狙いはシデンだ。シデンはとっさにスタンガンを構えた。しかし、邪魔が入った。
「おらおらああああああ!!」
ムービンだ。手にはめ込んであるメリケンサックを突き出し、身体全てにブーストを掛けて、飛び込んできたのだ。
「なっ…」
HNは共にそのパンチで吹き飛ばされ、ムービンは勝ち誇ったように立っていた。
「今一番危険なのはHNだ!そんなの馬鹿な俺にでも分かるぜぇ!」
ムービンは狙いをHNに絞っていた。ついでにシデンもHNと零距離にいた為そのパンチで吹き飛ばされたのは言うまでもない。

「…はて。」
HNの出す波動から何とか一命を取り留めたチェシャ。しかし何をすればようのやらただ鍵爪を見つめるだけで時間が過ぎて言った。
「おらっ!」
突如後方に殺気。感じたのが早かったおかげかチェシャは回避に成功した。
「避けたか…惜しい惜しい」
そこに立っていたのは大きな鎌、デスサイズを持っていたじゃぶじゃぶだった。その大きさから分かる通り、回避出来たが、ギリギリのラインだった。チェシャは後ろに飛びのいた。
「なんでまた私を…」
自分を狙うじゃぶじゃぶに悪意を感じながらもいずれかそうなると予見していた為チェシャは鍵爪を構え、戦闘をすることを認めた。
「じゃ、行くぜ。」
じゃぶじゃぶはデスサイズを後ろに一度引いてから、前方を切り裂いた。
「あぶなっ」
チェシャはデスサイズを鍵爪で受け止めた。しかし、耐久性も筋力ももとより此方が劣っている為、長くはもたないと考え、また引いた。
「逃げてばかりじゃ勝負にならないぞ!」
じゃぶじゃぶはまたしてもデスサイズを振り回した。チェシャは、その時、今だ! とタイミングを見計らい、デスサイズに飛び乗ろうとした。デスサイズに乗ることで、回避はおろか、じゃぶじゃぶと一気に距離をつめれることを思いついたのである。
「それっ…」
通常なら、チェシャのジャンプは成功するハズだった。しかし、突如謎の攻撃により、チェシャの足は負傷し、デスサイズはかわしたものの、バランスを崩し、倒れ込んでしまった。足の負傷はどこからともなく飛んできた、クロスボウの矢だった。
「命中…」
30m以上離れた場所にいるGAMEはチェシャを狙い撃っていた。GAMEの隣には後ろからボッコボコにされ盾を奪われたスラが頭にヒヨコを回していた。

「…ッ」
消えかかる意識の中、チェシャはふと横を見る。そこには同じくして、クロスボウを刺され、ぐったりしているじゃぶじゃぶの姿があった。狙われた部位は腹。相当の痛手により、じゃぶじゃぶは苦しそうに悶えている。
「お…、俺もう駄目だわ…。」
流石に痛みに耐えかねたのかじゃぶじゃぶは力を失せさせ意識を飛ばした。
「…」
チェシャも、もう、体力は殆ど残っていなかった。だが、ただ、ここでやられてはいけないような気がした。不意打ちごときで倒されるのはどうにも気にくわない。

その時、自分の体にふと、光が灯った。
その時、自分にはパワーが溢れていた。


「見たかい?今の。」
「何をですか。」
高田と二牙は会話する。高田はチェシャを指して言った。
「彼女は、[エクター・ド・マリス]のクラスの能力を開花させたね。」
「へぇ、能力は?」
「彼女を見ていれば分かるさ。」


チェシャは倒れたままで動かずにいた。しかしその時確実に彼女の負傷は急速に回復していた。GAMEはぐったりしている彼女に気付く術もなかった。

それは突如として、今、フィールド内で立っている二人、ムービンとGAMEに放たれた。無数の弾丸。
天井から降り注がれたそれは、彼等を貫いた。
「ぬ…」
一発、だ。GAMEの利き手ではない方の手に弾丸がかすった。
「奇襲かっ!」
GAMEはスラから奪った盾を上空に構えた。それは弾丸をことごとく弾いていった。

「うがっ!」
ムービンには足に、数発入れられた。防弾のプロテクターが弾丸のダメージを柔らげたが、ムービンには、少し、衝撃が走った。
「なんのおおおお!」
ムービンはそれに対抗意識を見せ、ブーストパンチにより、左ジャブを上空に放った。それは、弾丸を幾つも撃ち落としていった。

二人は悟った。天井裏に何かいる、と。

「ありゃま、上手くいかんかったやん」
マジックハンドが呟く。
「むぅ…次は方針を変えて見るか。」
ゼロは新たにトカレフの弾を込めた。

マジックハンドは状況を理解した。
ムービンとGAMEが道場の端っこの梯子に向かって駆けていく。
気付かれたな、と。
「おい、気付かれてるぞ。どうするんだ。」
マジックハンドはやや焦り気味の声で言う、しかしゼロは陽気なまま、足でコツコツと地を叩いていた。
「ふむ…」
「何してるんだ?」
「いや、実験。」

ゆらり。弾力により、突き刺さっていたクロスボウが押し出される。既に、外傷はなかった。しかし、気付かれると厄介だ。暫くこのままで潜伏していよう、とチェシャは決め込んだ。
隣にいるじゃぶじゃぶの意識はもうない、デスサイズは今、鍵爪よりも射程が広く、有効な武器となりえるかもしれない。チェシャはデスサイズを再度行動する時に奪うことを決めた。

「おらおらーっ!」
ムービンのブーストダッシュ、それは人間の限界をとうに超えたスピード。ついには5秒もなく100mを走りきり、梯子に手をかけた。
「…」
一方GAMEも走ってはいる。しかし、上方が気になって、盾を頭に抱えながら走ることになっている。

どんっ!
端っこまで叩き飛ばされ、壁にやがて衝突したシデンとHN。彼等の体は絡み合い、気持ち悪い構図になっていた。目が覚める頃が楽しみだ。

「あれ、開かないっ…」
ムービンがどんどん天井裏の扉を叩いても扉は開きもしなかった。
「どうしたっ!」
到着したGAMEはムービンに話しかける。
「扉が開かない。何とかなんねーか?」
ムービンの声と共に、GAMEはクロスボウを構える。狙いはドアの鍵。
「そういっ!」
この時、GAMEは狙っていたのかは分からない。ただ、分かることは、鍵に矢が当たった後、金属部分だった為、矢は撃った後、刺さりもせず落下し、ムービンの鼻に直撃したのだ。
「ぐへっ」
情けない声をあげてムービンは途中まで登っていた梯子から落下してしまった。そしてあえなく気絶。
「あ、すまん。」
軽く南無のポーズを手で取り、梯子を登ってGAMEは鍵がかかってしまった天井裏をどう開けようか考えるまでに至った。

GAMEは推測から、この鍵はクロスボウでは開きそうにないことに気付き、辺りに使えそうなものがないか探した。
近くにあった。それはじゃぶじゃぶのデスサイズだった。
さっと梯子を駆け下り、じゃぶじゃぶの元に近付いた。その場の異変には気付くこともなく。
「…」
近付くGAMEに潜伏者、チェシャは即座にデスサイズを拾い上げ、GAMEに攻撃した。その不意打ちは彼に避ける暇を与えなかった。
「うおっ!?」
GAMEは吹っ飛ばされ、ムービンの上に重ねられた。しかし、意識はある。
「潜伏期間ももう終わり。さっきの傷の仕返し、させてもらうよ」
チェシャは奪ったデスサイズを持って走り、大の字のGAMEに振り被った。
「…ッ」
GAMEはここでやられる覚悟を決めた。しかし、その覚悟こそが、光を呼び起こす起因になったのだが。

「げぶふっ!」
振り被ったデスサイズの餌食になったのは、先程まで、GAMEの下にいた、ムービンだった。

「ど、どこだ!?」
デスサイズが刺さったムービン。GAMEが目の前から消えて、周囲を確認するチェシャ。しかしGAMEの姿はどこにもない。
グサッ…
不意をつかれた。チェシャは先程まで周囲を見回していたが、チェシャの足下まで転がり込み、視界に入らない絶妙な位置からクロスボウを放ったのである。
「迂闊だったよ。まさか治癒能力があるなんてね。」
GAMEは意識が戻らないように2本目を打ち込み、周囲を確認した。残るは天井裏に居る者のみ…


「どうする?下はGAMEだけだぜ?」
マジックハンドはM60機関銃を既にゼロに構えていることはない、仲間として、ゼロを認識していた。
「そうか、ならもういいか。」
ガチャリ。ゼロはマジックハンドに拳銃を向けた。マジックハンドは驚いた顔で、
「冗談…だよな?」
と、言った。
「そう見えるかい?」
直後、ゼロの手元から一発の銃弾が放たれた。

「うぐっ…!」
ゼロの銃弾が直に腹に入る。凄い威力だ。
「おや、まだ立てるんだね。早く楽になってもいいんだよ?」
続け様に弾を入れる。全て、ダメージとなる。
しかし、マジックハンドは倒れなかった。
「…こんなに卑怯な戦い方だとは思わなかったぜ…。いいさ、お前をぶっ倒す!」
マジックハンドに光が灯る。それは鮮やかな赤色だった。
「ここで覚醒とは…厄介だ。」
ゼロはトカレフTT-33をポケットにしまいこみ、その足で思いきり、地面を叩きつけた。
バキィ…! 天井裏の地面は壊れ、いきなり落下していくゼロ。天井裏は銃弾が貫通出来る程薄く、尚且つ防弾服、プロテクターによりゼロは重装備だった。故にこんな荒技が可能になった。
「なっ!?落ちた!?」
ゼロの奇怪な行動に、マジックハンドは再度、驚かされた。

「まぁそうだろうと思っていた。」
GAMEはクロスボウを構えていた。自分が警戒しているのに、わざわざ扉から降りてくることはない、と分かっていたからだ。
「…」
クロスボウが落下中のゼロに飛ばされた。

飛ぶ矢。
それはゼロの落下速度を即座に計算し、矢がその場所にきた時点でゼロを貫くだろう、と完璧に計算された地点に飛んでいた。
「…なっ」
自分の落下に集中し、こんな事態に陥ることを予想していなかったゼロはその矢によって、腹を打ち抜かれた。
「ぐっ…」
吐き出す血痕。それと着地による足の衝撃、流石にゼロの身には負担がかかり過ぎた。ゼロは、崩れ落ちた。

「ふむ。」
GAMEはシールドを天井に向けながら、クロスボウの回収に当たっていた。クロスボウは大きい為、隠し持てる数は限られる。弾数が既に尽きていたのだ。
その作業中にGAMEは言った。
「天井裏、いるんだろ?降りてきな、降りる途中で攻撃なんざしない。」
それはマジックハンドに向けられた言葉だった。
「…わかった。」
腹に銃弾を受けているのに、更には畳への落下でダメージは受けたくない、マジックハンドは大人しく、GAMEの言葉に従うことにした。

「おや、マジックハンド君は覚醒しているようだね。あれは[サグラモール]のクラスのようだ。」
「効果はなんすか。」
「体力が切れにくいしぶとさ…かな?」
「微妙な言い方だな。」
二牙と高田はこういう会話を続けていた。

すとっ。
マジックハンドが地に下りる。M60機関銃はそれに合わせてガシャ…と鳴った。
「やぁ、下りてきたね。此方も丁度クロスボウは回収し終えた所だよ。」
GAMEはマジックハンドの方を向く。すると直後、クロスボウを構えた。
「君は既に数発喰らっているようだが。」
マジックハンドの状態を見てGAMEが言う。そのクロスボウの焦点はその狙われたお腹に向かっていた。
「ダメージを受けている場所にダメージを与える、これほどダメージソースになることはないね。」
淡々とGAMEが喋ってから、遂にそのクロスボウを放った。
「くっ…」
素早い動きは出来ないものの、マジックハンドはすれすれでその閃光のような一撃をかわし、M60機関銃を構えた。
「…じゃあ俺からも言おう。これは機関銃だぜ!」
回転する銃口。それを更にGAMEに向かって振り回す。その弾丸はGAME単体を狙う訳でなく、全方位にぶちまけられた。
「見えているっ!」
その弾丸一つ一つをその動体視力で見極め、盾で防いでいく。しかし、GAMEは弾丸を見つめ過ぎた。
ヒュッ!一つの攻撃。
「がっ!?」
分け隔てなく全方位に散らされた弾丸の数個は上空に向かい、崩れた天井裏の木材に衝撃を与えた。もとより崩れかけた部分。いつ落ちても不自然ではなかった。
GAMEにはその40cm程の木材の塊が頭上に落下してきたのだ。
「今だっ!」
マジックハンドは一瞬怯んだGAMEに突進していった。そして、零距離まで。
チェックメイトだ!」
マジックハンドはM60機関銃をGAMEの腹に放った。




「まさかこんな馬鹿らしいことが起きるなんてね。」
GAMEの腹に入ったと思われた数々の弾丸。しかし、それはGAMEの懐に入れていた数本のクロスボウの盾によって防がれ、直後の手刀がマジハンの首に振り下ろされ、戦いは幕を閉じた。

「やぁお疲れ。」
高田の声により、敗者復活戦は幕を閉じる。
「まさかお前とはな」
二牙が感嘆の声をあげる。
「途中で負けたりしたら面白くないからな、勝てよ」
二牙は戻ってきたGAMEに向けてそう言った。
「お前こそだ。」
そして、そう返された。

「新たな1回戦の始まりだぜー!」
「イェーーーーッ!」
異様な盛り上げを行っているのはHN。それに準じて、白秋が騒いでいた。
「うるさいぞお前ら」
二牙はどこからともなく取り出した煎餅をパリパリ食いながら新しく印刷された次の試合の表を見ていた。
「(ZK と GAMEか…面白い組み合わせだな。)」
「「ヒュー!イェエエエエエエエ!!」」
「だからうるさいっつの!」


「へぇ。黒刀かい?君の武器は。」
自分のクロスボウを仕込みながらZKに聞いた。あまりに自然だったのでZKは普通に返答した。
「あぁ、で?お前の武器はクロスボウと。俺はどうやら射撃を使う嫌らしい奴と当たる運命にあるらしい。」
呆れかえったようにZKが言った途端にGAMEの目が細めいた。
「そろそろやるよ?」
「来い!」
ZKは黒刀を構えた。
初手はGAMEのクロスボウ。ZKの足を狙った一撃だった。ZKはそれを黒刀で防ぐこともなく、よけることさえしなかった。ただ、
「それぇっ!」
飛んできたクロスボウを蹴り飛ばした。
ZKは無傷、散り逝くクロスボウに思わずどや顔をかましてしまったZKだが次のGAMEの行動が待っていた。
「それも計算済みさ!」
クロスボウを放っている間に5m程あった距離を詰め、攻撃を仕掛ける。
「それ!」
留守にしていた手に黒刀を動かさせる。
「…」
それを予見していたかのように後ろに回り込み、GAMEは膝蹴りを入れた。
「フェイント…!?」
ZKは吹っ飛ばされた。


「フェイント…」
GAMEの攻撃にはフェイントがかかっていた。まさに不意打ちにも取れる行動だ。
「今の数パターンで理解した。ZK、俺は君に負けない。」


「強気に出たね。」
高田はGAMEの様子を見て判断した。
「うーん、ZKはああいう攻撃には弱いからなぁ…強気ではなく事実かもしれないです。」
HNはZKの思考が分かっている。ZKは頑固で曲がったことが嫌いであり、どんな攻撃でも正面からぶつかりたい、という性格をよく理解している。
「彼にはまだ秘めたるポテンシャルがある。」
高田は言った。


「ぬぅ…」
ZKはGAMEの言った言葉に少し動揺していた。しかし、諦めてはいない。
GAMEは既に仕込んだクロスボウを持ってZKに近づいていく。
「次は、どうするつもりだ? そう思っているね。顔に書いてあるよ。」
「ぐっ…!」
ZKの考えを読み取り、更にZKを追い込むGAME。GAMEは予備のクロスボウを持ってそのまま突進した。クロスボウとは本来、木で出来た矢なので、刺さりやすい。そのまま刺しに行っても充分使えるだろう。だがGAMEは突如、左右にステップをしながら近づいてきた。
「(…)」
GAMEの攻撃は短い刀と一緒のレベル。ならば率直な話、長い刀であるZKはリーチ的に優位にある。
「それっ!」
ZKは近づくGAMEに横でなぎはらった。しかし、GAMEはその瞬間、後退し、もう片方の手で仕込んであったクロスボウを発射した。
「なっ…!?」
GAMEのクロスボウはZKの腹を抉った。
「何故そんな反応能力が…」
ZKは朦朧とする意識をなんとか保ちながら、GAMEを見た。

GAMEは、既に能力の解放を行っていた。

「切り札は温存しておきたくない主義なんだよ。」

「…」
ZKも無言ながらに能力の解放を行った。…そしてそのまま腹に突き刺さったクロスボウを抉り抜いた。赤い鮮血が飛び散る。
「ふむ、もうやる気か」
GAMEはZKを見て、クロスボウを再度構えた。
実の所、敗者復活戦の途中、腹の傷が原因でZKはGAMEの能力がなんたるかを知ってはいない。だがGAMEはZKの能力について理解を置いている。


それを知りえているかの差の故、GAMEはZKより優位に戦えるのである。

「さて、と。」
先程、短刀として使用していたクロスボウを仕込み、GAMEは距離をおく。
「このままじゃ終わらせねえよ」
ZKは[ガレス]のクラススキル、デメリットの無効を最大限に使用した。デメリットの無効とは、ダメージだけでなく、本来体に負担をかける行動でも負担の軽減を行える仕様になっている。
ZKはクロスボウを地面に突き立て、踏み台にした。そこからのジャンプはGAMEと離れていた距離を一気に縮めた。
「空中が一番危険だと言うのが分かってないのか!」
GAMEは抵抗が出来ないと思っていたZKにクロスボウを放つ。だが、ZKの行動はGAMEの思考を一つ、上回った。
「せええええええい!」
ZKは、ジャンプ途中に次の足を踏み出し、飛んできたクロスボウさえも踏み台にした。
「なんだと…!?」
GAMEはこの人間技ではない行動にのけぞった。
「喰らえやああああああああ!!!」
ZKの、高所からの黒刀が降った。


飛び散る火花。
そこに巻き起こる煙。

「終わりだっ!」
誰かの声。
瞬間、ZKは軌道をねじ曲げた。
軌道を変えていなければ自分は既に、無数のクロスボウに自ら突進していただろう。

「どっちにしろ、変わらないことさ。」
GAMEは地面に刺さったクロスボウを一つ引き抜き、落下したZKに向けた。
「GAME OVER。」

ZKの視界にはGAMEしか映っていなかっただろう。それ故に巧妙な罠に気付くのが遅れてしまった。
GAMEはこの戦闘において、自分に有利な展開を繰り出そうとしていた。
散乱するクロスボウの矢。GAMEは戦闘中、クロスボウで攻撃しようとするがせずに別の攻撃手段を取ってフェイントを幾度となく使用していた。そっちの攻撃に意識が飛んでしまい、もう片方の手でクロスボウがどうなっていたかなんて気付かない。
その時、GAMEはクロスボウをある一定の範囲内に無駄撃ちしていた。
それは、後の布石になりうる罠だった。

「最初から、君がこう、空中攻撃をしてくるのは読めていた。地上戦でのクロスボウの回避に付け加えたジャンプで叩き斬ってくることを予想していたのさ。まさかここまで上手くいくとは思わなかったけど。」

GAMEはクロスボウを地面に刺しておくことにより、自らZKがクロスボウに突進していき、致命傷を受ける戦術を取った。クロスボウの命中率で下手な所に当てるよりは後々機能しにくい所に当ててしまった方が都合が良い。

今、ZKはGAMEの能力により、技を回避され、尚且つクロスボウから軌道修正を強いられ、無理な姿勢で落下した。GAMEがこの機会を見逃すはずはなかった。

「じゃーな。」

クロスボウが飛んだ。

「…」
ZKはまだ動く。[ガレス]のクラス能力による補正により、行動はまだ可能だ。しかし、自分の姿勢と、GAMEの攻撃態勢。明らかに、不利だ。
そして飛ぶ一本の矢。
…これが最後のチャンス。

「うおおおおおおおおお!」
利き手からの黒刀投げ。
その黒刀はクロスボウを真っ二つにし、GAMEへと飛んでいく。
「忘れたとは言わせない。僕にはこの目がある。」
飛んできた黒刀を即座にかわし、そして、奪う。そこに隙は生じた。
「そこだぁぁああああああああ!!!」
ZKに灯る、更に大きな光。それは、ZKの全身に回る。


「お、Lv.2のようだ。早いね。戦場ならもっと早い進化速度だろうけど。」
高田が若干興奮気味に見ている。
「Lv.2能力はなんなんですか?高田さん。」
HNが聞く、それに高田は答えた。
「「思念遠隔操作」、といった方が現代人の君達には分かりやすいかな?物を自分の好きなように遠隔操作出来るんだ。自分の大切な物とかに限るけどね。」
「へぇ…凄いですね。」


「何を…」
GAMEが奪った黒刀がGAMEの意志に反し、勝手に動く。
「む……く…」
GAMEは遂に、刀の力を抑え切れず、手を離した。そして次の瞬間、刀はGAMEに飛びかかった。


「あらら。惜しい展開だ。」
高田の声が通る。
そこには、防御の姿勢を取ったまま、動かないGAMEと、意識の念が途切れた刀と、倒れたZKがいた。
「体力切れ、か。」
ZKは既に体力を切らしていた。ゆえに、GAMEは何とか、命拾いをしたのである。


「あっけね。」
二牙の言葉で戦闘は無理やり幕を下ろされた。

ガシャ…ガシャ…
何かの音が聞こえる。それは多分、あの少年が持つ、大きな斧だろう。


ユキ vs 白秋 

「見てらんねえ…」
外野に戻ったGAMEが言う。そう、ユキの武器は大型のハルバート、それに対し、白秋の武器はバールとスパナなのだ。
「鬼だな…」
隣にいたG.MATも口を重ねる。

「やぁ。」
軽い挨拶。しかしそれは挨拶というより、猟奇殺人現場になり兼ねない雰囲気であった。
「や、やぁ。その恐ろしい物体を下ろしてくれないかな?」
白秋が半歩下がって発言する。ユキは今、ハルバートを白秋に向けてニコニコしている状態だ。
「戦いは既に始まってるんだよ?」
ユキはその重そうなハルバートの重量を無視した動きで大きく飛んだ。
「なっ…」
そして、そこからハルバートに付属したチェーンで、穴がぽっかり空いた天井に引っかかった。
「何…してるんだ?」
「いや、君の攻撃は威力がないしこれで終わらせようかと。」
ユキはハルバートに捕まり天井にぶらさがった状態から、ハルバートに飛び乗った。天井が軽くズズッ…と痛む音がする。
「熱化。」
ユキが唱えると共に、ハルバートを中心にして、暑い空間になった。
「な、なんだ!?」
「君はこの暑さで体力が削られていくだろう。それまで僕はのんびりしていられるわけだ。」
白秋は、サウナ地獄に服を着たまま放り出されたのも同じ状況となった。

「暑いです。高田さん。」
外野達は抗議を高田に向ける。
「むぅ。分かった。一人一つ扇風機と冷えた飲料水を支給しよう。白秋くんには与えないが。」


「あつっ!」
既に白秋は汗まみれだった。しかし、更に絶望的なのは。自分の武器であるバールとスパナはどんどん熱を吸収して熱くなっていっている、ということだ。
「おぉう…ピーンチ。」
白秋は悟ると、ユキにバールを力いっぱい投げてみた。
「それ!」
ゲシッ。
しかしそのバールは軽く足で蹴り返された。
「なっ…」
白秋はそれでも諦めず、天井裏の方に向かった。そうしている間にも白秋にはダメージが蓄積されていく。

「天井裏か。」
ユキは白秋が天井に登ったのを確認してから畳にハルバートを落としてから、自分もそっと落下した。

「あー!汚えぞ!てめぇ!」
白秋はユキの行動に憤りを感じた。ユキに何とかダメージを与えるべくユキが落下した所に自分も落下して飛び蹴りをかましてやろうと白秋は飛び降りた。


グシャア。


目の前、そこには形容し難い物体と化した人間がいた。
「…生きてる?」
ピクリともしないその体、ユキは軽く熱を帯びたハルバートでつついてみた。
ツンツン。

「死んでますねっ!」
「死ぬかああああああああ!」
突っ込みと共に起き上がった白秋がバールとスパナを持って飛びかかってくる。
「うわっ!」
思わず避ける。そしてハルバートで殴りつける。
「げふっ」
ズシャアアアアアアアア。白秋が殴り飛ばされる。
「…生きてる?」
「ぬおおおおお…」
しぶとくも白秋は立ち上がる。既に汗はだらだらで熱中症になりそうだ。
「解せん…解せんぞおおおおおおおお!」
白秋はその瞬間、何かにキレ始め、体から光を放ち始めた。白い閃光。



「覚醒って案外簡単な物なんですかね。」
HNは高田に問いかける。
「知らない。」
高田はどうでもよさそうに扇風機に顔をくっつけているだけであった。
「じゃああのクラスは何だと思います?」
「[ラモラック]じゃないかな。ていうか白秋君は最初の戦いの時に能力解放を一度だけごく僅か成功させている。」
「え?」
「[ラモラック]のLv.1スキルは身体能力の向上ってことさ。成長率もね。」

「わっ…わっ…」
バールとスパナの攻撃。
「干将・莫耶!」
意味のわからないようなことを呟きながら白秋は交互に突き出すような形でハルバートで受け止めにかかるユキを押していった。
だが人間、汗はかく物である。
「あっつ!」
突如として攻め続けていた白秋の腕が止まる。熱さに耐えかねたのだろう。
「もう終わりかい?」
さっきまで押され気味だったユキは威勢を変え、白秋に向き直る。
「クッ…いいだろう。ならばここで決着をつけるぜ!」
白秋はそう言ってバールとスパナの構えを変えた。


「はっ!見てろよ!」
白秋はそう言って半歩下がり、そしてバールとスパナを投擲した。
「鶴翼三連!」
白秋は投げたバールとスパナをハルバートを盾にするユキにぶつけた。
「うぐっ…!」
「まだ終わらないぜ!」
そして[ラモラック]の能力の恩恵を得て、跳ねたバールとスパナを回収し、凄い勢いで跳んだ。
「いっくぜえええええええ!」
白秋はバールとスパナ2本をまとめて、両手で持つと、そのまま空中落下の姿勢から振り下ろした。
「北原の恨みじゃあああああ!」
「誰だあああああああああああ!」
その突撃を何とかハルバートで受け流したユキ。
「早くくたばれえええええ!」
白秋に向かって今度はユキがハルバートを振り回して行った。
「げふっ。」
しかし既に立つだけで精一杯、避けることは白秋には不可能だった。
「な…」
あまりにものあっけなさにユキは少し驚くがよく見ると、白秋は枯れた花、いいや干された魚のように湿気を失っていた。
白秋は既に限界だったのだ。

ユキの勝ちで今回は幕を閉じた。

2回目の3回戦。
対戦表には「二牙」vs「G.MAT」と記載されている。

「…」
G.MATは自分の武器を見てから自分の前に立つ相手の武器を見る。
そして深呼吸をしてから言い放った。
「理不尽だぁああああああああああ!!」


「どうですかね?高田さん。」
HNは高田に向かって勝負に関して問いかける。
「んー、みんなG.MAT君を哀れな目で見ているけどそう決めつけるのは早計だと思うよ。」
高田の言葉にHNは目を丸くし、改めて問う。
「というと…?」
「ナイフと槍では勿論のごとくリーチは槍の方が有利だが、ナイフは投擲にも扱い易く、槍の投擲は[ユーウェイン]クラスのLv.1スキル「射撃カウンター」の圏内に入ってしまう、と言うことだ。つまり一定の距離を保ちながらダメージを少しずつ蓄積していけば勝ち目はある、ということだ。」
高田の言葉にHNは「へぇ…」と理解したかのように頷いたが、一つ言葉を口にした。
「でも結局槍の方が有利なんですよね。」
「うむ。」

「どうする?」
二牙は既に戦闘態勢を取っていない。
「俺は結果が決まった勝負をしたくない訳だが。」
槍を肩で支え、時には回したりしたまま、二牙はG.MATの返答を待つ。
数分後、G.MATは一つだけ、口にした。
「勝負は既に始まってるからな!後悔すんなよ!」
G.MATは距離を取って、跳び、ナイフを投擲した。この辺武器の相性は分かっているように見えるが、初期ナイフ所持量は12本である。
「ふあぁ…」
あくびをしながら二牙は飛んできたナイフに距離を取って射程圏内から離れた所で槍を使ってゴルフのようにナイフを打ち返した。
「ひでぇ!」
飛ばしたナイフはG.MATの元にカランカランと音を立てて帰ってきた。
G.MATの投げるナイフの速度は時速80kmにも到達していない。最早こういう芸当がされても仕方ないのだろう。
しかし、打つ手は失ってしまった。

「…」
二牙は気付けば、G.MATの後ろに回り込んでいた。
「勝負すると言ったからにはフルボッコだ。いいな?」
二牙は槍の連撃を3回置きに6回続けて、いきなり現れた二牙の前に硬直してしまったG.MATの背中に打ち込む。
「ガッ…!?」
G.MATはそのまま倒れ込んだ。そこから槍をうつ伏せになったG.MATの背中に突き立て、二度目の質問をした。
「まだ、続ける?」
と。
既にG.MATは打つ術がなく、紛れもないピンチの状況に陥った訳である。

G.MATはその背中に響く痛みに別れを告げるように、その伏せた状態のまま、手を上げた。
銃を打つ時、手を上げろ!と言う時があるだろう。その時のシーンを頭に思い浮かべた二牙は、この手を上げる行為を、降参だと思い込んだ。そして、背中に押し付けられた槍の先端が離れる。
その時だった。
「かかったな!」
槍がある程度まで離れた瞬間そのうつ伏せの手を上げた状態から、即座に駆け出したのだ。そして一瞬の出来事に驚く二牙に、去り際、ナイフを投擲した。
「なっ…!?」
刺さるナイフ。それは利き手に。
「もう一本!」
放たれたもう一つは二牙の利き手の腕に突き刺さった。
身体における、腕の部分には、武器からの攻撃に身を防ぐ為の防具がない。G.MATは油断した二牙を狙って、そこを狙い、槍を封じたのだ。勿論背中の痛みも尋常じゃないが。

「フェイクですね。」
HNがG.MATの行動を見て言う。
「優秀な戦術だが、模擬戦で使うと嫌われるだろうな」
高田はその様子に苦笑いで答えた。

「卑怯だな。お前。」
二牙はそう愚痴を漏らし、利き手と反対の手で槍を掴む。
その言葉は直にG.MATのメンタルに突き刺さる。
「う…」
G.MATは半歩後ずさったが、これは二牙の罠、勝ち筋が薄くなった以上、精神面で勝とうとするやり方である。
「正々堂々とやってこその模擬戦だろ?」
「そんな卑怯なやり方で勝手嬉しいかよ」
「まぁ所詮はそんな奴だったってことか」

どんな言葉もG.MATの心に突き刺さる。
もとより彼はメンタルが弱点だ。
「う…っ」
「(今か…?)」
頭を抱えてうずめき出したG.MATに、二牙が槍を構える。行動のチャンスを作るには丁度いい余興だった。
「よし、行くぞっ!」
二牙はG.MATに突進する。
「いけえええええ!」
渾身の一撃で。


しかし、攻撃は謎の闇に吸収された。

闇。
G.MATを覆う、薄暗い闇。彼を丸く覆っている。
今、その闇に二牙の槍が刺さっている状態だ。
「…ッ!?どうなってんだ!?」
危険をどことなく察知した二牙だが、槍が抜けない。
その闇の中から無数の放たれたナイフ。
そのナイフは、槍を抜こうとしている二牙に確実に刺さっていった。


「あれは…、何でしょうかね。」
HNが高田に問いかける。薄暗い闇がどことなく不気味だったので少し鳥肌がたっているようにも見える。
「あれは…[ユーウェイン]のLv.2の能力に該当している能力の一つ、防護フィールドだね。」
「防護フィールドとは?」
聞き慣れない言葉にHNが尋ねる。
「自分を守る殻さ、彼の場合、心の闇がフィールドを展開している為、なかなか解除してくれないだろうね(笑)」
高田はそう言った。


「うぐっ!?」
無数のナイフ、一本一本に火力はそこまでない。刺さると痛い程度である。しかしダメージは蓄積されるのもまた事実、少しずつ血が流れて行く。
「こ……報…だ…!受……れっ!」
闇から漏れる声。その聞きにくい声が聞こえた瞬間、二牙の半分くらい刺さった槍がふと、軽くなった。二牙は逃さずその瞬間引き抜いた。が、
「な、な…」
引き抜いた時の感覚はあっけない物だった。何故ならば二牙の槍のその半分から先は切断されていたのだから。
「なんだこれはぁああああああああっっ!?」
二牙の渾身の叫びは道場全体に響いた。

半分に折れた槍、もとより槍とはそこまでの耐久力を持たないのだが、闇の中で折るというのは難しい…というより、闇の中で何が起こっているのかは半ば謎である。

すると、闇からカランコロン…と、折れた槍の片割れが転がる。
そして、闇が解かれる。
「制御フィールド…解除…」
スキルというのは発動ごとに、自らに反動を及ぼす。また、フィールド展開式のスキルは多大な反動を自分に与える。一定時間ごとにその反動が帰ってくる為、生半可な体力では耐えきることは出来ない。

突如、G.MATは畳に倒れ込んだ。


「あちゃー、どうやらやってしまったようだね。」
高田はその様子を見て、呟く。
「なにをですか?」
HNはそれに対応するように応える。
「彼は自らのスキルにより自分の体力を全て消費してしまったんだよ。」


「なんだこれ、俺の勝ちでいいのか?」
倒れ込んだG.MATを少し見てから高田に向く。
「あぁ、どうやら戦闘不能のようだしね。」
「ふぅん…」
二牙はどうにも納得いかない気持ちで戻って行った…が、何かを思い出すと高田に近づいていった。
「これ、どうすればいい」
槍、二本に折れた。
「あー…もう二槍流でもやっちゃえば?」
「俺には新しいの支給はなしかよ!?」
「うーん…あ、接着剤使う?」
「使わん!」
         ☆☆
「えーっと、次の試合は…」
HNが対戦表を見る。
「はりとsinか。」
両者は既にフィールドに立っており、緊迫した雰囲気を醸し出していた。

「詰んでね?」
最初に言ったのはGAMEだったか。
あれこれで試合が始まって数分。
sinの武器はエラッド。音量により、聴覚を通してダメージを与える武器である。打撃にも使えないこともないが、正直、ペットボトル詰め込んだ鞄よりも威力がないように思える。
対するはりの武器はチェーンウィップ。
自在な動きによって相手を翻弄し、刺したりなど、色々便利な武器である。

浮上した問題、それははりの能力にある。
「無意識化」
それは、ダメージ干渉をないように錯覚させる能力であり、不快感等も勿論無力と化す。
これを前提に置いた場合、
「詰んでるな。」
偶々近くにいた二牙が答える。
無意識状態にある時、音量によるダメージは無に等しい。どう戦うんだと見学勢はざわざわしている。
「まぁさっきからの戦況見る限りsinがいじめられてるだけだがな。」


「うわぁあああああああ!」
チェーンウィップが飛ぶ。sinの足下の畳にグサ、グサ、と刺さり、必死に回避するsinは攻撃にも動けない。
「…」
はりは既に能力を解放しており、試合を早期に決めようとしている。
「は、はりさん!もうちょっと楽しくバトルしようよ!」
sinの声ははりには届かない。
その瞬間、チェーンウィップの動きが変わる。先ほどは地面に刺し続けていたが、鎖の部分を駆使して、sinを巻き付けに行ったのだ。
「あわわわわわわわ」
鎖でまかれたsinは身動きが取れず、エラッドも落としてしまった。
「は、はりさん?」
そうこうしているうちにはりはsinに近付いていく。
そして蹴る。
「あわっ!?」
sinは蹴り倒される。
その戦場は強者が弱者をいたぶる図その物だった。

「期待した俺が馬鹿だった。」
それは、他の誰からでもなく、シデンの口から飛ばされた物だ。一回戦、惨敗を遂げたシデンは、せめてsinに勝ち抜いて欲しい、と願っていた。しかし、現実は非情である。

勝負は既に終盤に来ていた。
sinの声はもうかすれるようであり、今にもリタイアしそうな勢いだった。
「ゃ…やめようよぅ…一方的過ぎて観客から見るとつまらないハズだよぅ…」
sinも気付いていると思うがはりに声は届かない。
「…」
だが、はりはやがて、鎖を解除した。
「…ぉ、正々堂々するつもりなんだね!おーし…やるぞぉー!」
はりが解除したので、勢いよく立ち上がり、sinはエラッドに向かって手を伸ばしていった。
その時か。
無情にも、とどめの一撃が、sinを貫いた。
正直、鎖の解放など、何か意図があるようにしか思えない、それをsinは気付くべきだった。
蹴りだけじゃとどめのダメージは入らない。これを知っていたはりはとどめを刺しにいったのだ。

だが、勝負というのは簡単には終わってくれない。sinはとどめを刺されたハズなのに、ずっと立ったまま、倒れもせず、動かないのだ。


「おや、少しだが能力反応があるね。」
「あ、本当ですね、光が少しずつ。」
高田とHNが会話を交わす。その会話をしている間にもsinの光は力を増していた。
「…もしかして…」
高田は何かに感づいたように、こわばった顔をした。
「あのスキル…もしかすると彼のクラスは[ランスロット]に該当するのかも知れない、すると彼女が危険だ!」
「な、なんでですか」
HNが取り乱した高田に尋ねる。
「あのスキルは[バーサーク]!全てを破壊しかねないぞ!」